北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告

Status Report of Grey Herons in Hokkaido

標津コロニー

コロニーの全景(最も奥の林がコロニー)

標津町伊茶仁、標津川左岸の平坦なカラマツ林内にある。コロニーから標津川の河口までは約400mあり、コロニーの周囲には古川が点在する。この林の南西には鉄道の軌道跡(標津線、1989年に廃線)があり、その先には約80mの距離を置いて別のカラマツ林がある。それ以外の方向は広葉樹がまばらに生える草地で開けている。また、コロニーの周囲は部分的に湿地状になっている。なお、ここのカラマツは比較的密に植えられていて細い木が多い。また、枯死したカラマツも多く、林の中には数カ所にギャップが見られる。

2003年1月1日と2日の調査では、カラマツ163本、シラカンバ6本、ハルニレ1本の3種170本に、計193巣を確認した。高木にはこの他ヤチダモやエゾノバッコヤナギなどもあった。低木としてはハシドイなどがあり、ギャップ下の林床にはホザキシモツケなどが見られた。営巣面積は約6,000m2であった。また、1990年5月3日に松田あおい氏が行った調査では、カラマツ89本に使用巣95を確認している。当時の営巣面積は約4,000m2である。

地元の人によると、このコロニーでは1985年頃に約35巣を確認したという。また、1983年か1984年には、数つがいが標津川の河畔林で営巣していたとういう。これらの場所でいつから営巣が始まったのかについては不明である。当コロニーは、1990年から1995年までポー川史跡自然博物館の椙田光明氏らが巣数調査を行っており、1990年に92巣(11月に調査、営巣木92本)、1991年に96巣(12月10、11日、96本、以上、藤井 1992)、1992年に164巣(11月21日、163本)、1993年に216巣(11月26日、207本)、1994年に171巣(12月21日、167本)、1995年に223巣(12月16日、212本)を確認している。1996年以降は私が調査を行い、1996年に335巣(9月15、16日、292本)、1997年に324巣(9月18、20-23日、275本、以上、松長 1998)、1998年に342巣(9月19日-27日、277本)を確認している。なお、1998年の調査では、低木としてエゾニワトコとナガバヤナギなどが見られている。また林床の草本には、優占するスゲ類のほか、オニシモツケ、ミズバショウ、ミゾソバ、サワアザミ、ササなどを確認している。

このコロニーのアオサギは、サケ・マスの稚魚が放流される春には、伊茶仁ふ化場近くの伊茶仁川を利用することもあるが、基本的には餌場のほとんどを野付湾に依存していると考えられている(Matsunaga 2000)。なお、野付湾はアオサギの渡りの中継地にもなっており、1996年9月12日には湾内に853羽のアオサギが確認されている(Matsunaga 2001)。

このコロニーの北側には産業廃棄物の再処理工場があるが、ここでは生魚等が屋外に放置されており、ここを訪れるカラスによりコロニーにしばしば撹乱が起きている。また、コロニーの近くにはオジロワシの営巣地があり、コロニー上空をワシが頻繁に通過する。ここのワシは普通はコロニーに干渉することはないが、1998年8月上旬に、私はオジロワシが何日にもわたりコロニーを襲撃したのを確認している。ただし、襲撃が成功した事例は目撃していない。また私は、1997年6月に、これとは別の巣のオジロワシが野付湾で採餌中のアオサギを襲い捕食するのを目撃している。

このコロニーでは、1997年にダイサギがひとつがい営巣したが、抱卵から22日目に放棄している。なお、道内でシラサギ類の繁殖が確認されたのはこれが初めてである。

このコロニーでは、春先、山菜採りや釣り人が林に近づくため、アオサギの繁殖に悪影響が出ている。これに対して標津町では、立ち入りの自粛を求める看板を立てるなどコロニーの保護に努めている。また、このコロニーでは1990年に北海道電力の高圧線が通過する計画があったが、町の人々の反対運動によりコロニーを迂回するルートに計画が変更され、この結果、営巣木の伐採を免れている。また、コロニーより数km内陸にある民間の養魚場ではアオサギによる食害の被害が出ている。なお、この地域では遅くとも1990年代前半から越冬個体が見られている。

参考文献
藤井薫 1992 標津川のアオサギ営巣地(コロニー)について 標津町ポー川史跡自然博物館紀要 標津の自然、歴史、文化 第1号 31-42
松長克利 1998 北海道標津鳥のアオサギ営巣地について 標津町ポー川史跡自然博物館紀要 標津の自然、歴史、文化 第7号 1-17
Matsunaga, Katsutoshi 2000. Effects of tidal cycle on the feeding activity and behavior of Grey Herons in a tidal flat in Notsuke Bay, northern Japan. Waterbirds. 23(2). 226-235.
Matsunaga, Katsutoshi. 2001. Distribution and breeding behaviors of the Grey Heron in Hokkaido, northernmost Japan. Ph.D. thesis, Hokkaido University, Sapporo, Japan.

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コロニーの周辺環境
コロニーの内部