北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告

Status Report of Grey Herons in Hokkaido

おわりに

私が初めてアオサギに出会ったのは、1990年代の初め、野幌の森であった。うららかな新緑の森を歩いていた私の頭上を、あの異様な声をあげながら突如横切った黒い影は、鳥というよりむしろ翼竜のように思えたものだった。その直後、私はコロニーというものを初めて見たのだが、さながら恐竜の時代へ迷い込んだかのような錯覚に陥ったことを今でもはっきり覚えている。

それ以来、道内のコロニーを数多く訪れることになったが、どのコロニーもひとつとして同じものはなかった。数つがいでつつましく暮らしている山間のコロニーもあれば、まさにサギの王国を感じさせる巨大コロニーもあった。また、町の公園で子育てを始めた大胆なサギたちもいれば、水上生活に活路を見い出したしたたかなサギたちもいた。それぞれのコロニーにはそれぞれの暮らしがあった。それは、我々が暮らしている町や村の有り様と何ら変わりのないものである。つまり、彼らは76の町や村に暮らしているのだ。そして、もうひとつ忘れてはならないのは、それぞれのコロニーにはそれぞれの歴史があるということだ。ともすれば、我々人間は自分たちだけが時の流れの中に生きており、他の動物は時とは無関係に、ただそこにいるだけのように思いがちである。しかし、彼らもまた我々と同じように今のこの時代を生きており、絶え間なく変化する状況の中で、日々、新たな出来事を彼らの歴史に積み重ねているのである。

北海道は、人の暮らす大地であるとともに、アオサギの住む大地でもある。その生活圏は、ここまでは人、ここからはアオサギというように区分できるものではなく、互いに分かちがたく結びついている。そして、人とアオサギは同じ時間を生き、同時代の歴史を形づくっている。今この瞬間にも、人が生活しているのと同じく、道内のあちこちでアオサギの生活が営まれているのだ。そのことを実感として持ち続けることが、人とアオサギの共存にとって最も必要なことだと思うのである。

この報告書では、そうした思いから、彼らが置かれている状況を歴史的な視点を交えて捉えたつもりである。それは結果としてアオサギと人間との関わりを紐解いてゆくことでもあったと思う。この報告書が、そうした試みにいくらかでも成功していれば嬉しい。

最後に、この調査を遂行するにあたりご協力を賜った方々に厚く御礼を申し上げます。とくに現地調査の折りには、地元の方々から貴重な情報をいただきました。北海道の隅から隅まで、本当に多くの方々にお世話になりました。心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。