アオサギの有害駆除に係る問題点に関する報告

Report on the Problems of Grey Heron Control in Japan

5. アオサギの管理指針

アオサギの管理にあたっては広域での個体群構造を考慮した対策が必要である。以下にその理由を述べる。

アオサギの特徴のひとつは集団で繁殖を行うことである。個々のアオサギは基本的にいずれかひとつのコロニーに属しており、コロニーが個体群の最小単位になる。このため、アオサギの管理はコロニー単位で行うのが効率的である。ところが、コロニーは必ずしも単独で存在しているわけではなく周囲のコロニーと相互依存関係にあるため、単一のコロニーのみを対象とした管理策では十分な有効性をもたないことが多い。したがって、有効な管理計画を策定するためには、コロニー単位で状況を把握するだけでなく、相互依存関係にある同一地域のコロニー(以下、これらをまとめて広域コロニー群という)を総括しての状況把握が必要となる。アオサギの管理を広域で行わなければならないのは主としてこの理由による(注1)

アオサギの広域コロニー群の構造については、Matsunaga et al. (2000) が北海道内のコロニーの動態を分析し、メタ個体群構造の考え方に基づくモデルを提唱している。これはアオサギの個体群を科学的に管理していく上で基礎となるべき重要な考え方なので、ここではこのモデルにしたがってアオサギの管理を考える。以下がモデルの要点である。

・広域コロニー群は地理的にまとまりのある複数のコロニーで構成される。
広域コロニー群の各コロニーは、機能の面で「コアコロニー」と「サテライトコロニー」に区分される。通常、広域コロニー群はひとつのコアコロニーと複数のサテライトコロニーから成る。

・コアコロニーは、安全で恒久的に利用可能な営巣場所と、豊富な餌資源を安定して確保できる餌場を有し、周辺地域の環境が悪化した場合でも基本的にその存在が脅かされることはない。

・サテライトコロニーは、必要最低限の営巣環境および採餌環境があれば成立する。

・コアコロニーは、周辺地域の環境が良好な条件下で余剰個体を放出し、これら余剰個体がサテライトコロニーを形成する。逆に、周辺地域の環境が悪化した場合は、コアコロニーはサテライトコロニーの個体を吸収する。

・以上のしくみが機能することで広域コロニー群の安定化が図られている。

以上のことから、アオサギの管理にあたっては、広域コロニー群の安定化を目標にするのがもっとも合理的である。そのためには、まず広域コロニー群の全体像を把握し、その中でコアコロニーを特定する必要がある。コアコロニーは広域コロニー群を系として安定化させるための中心的役割を担っているため、コアコロニーに問題が生じると、コアコロニーだけでなく広域コロニー群全体に影響が及びその安定性が損なわれることになる。したがって、アオサギ個体群の保全にあたっては、コアコロニーの保護に最優先で取り組む必要がある。サテライトコロニーについては、コロニーによって広域コロニー群の安定性への寄与の度合いが異なるため、コロニーごとに保護の優先順位を設け、広域コロニー群の安定性を崩さない範囲での個別対応が求められる。このように、コロニーの保護についてはすべてのコロニーに一律の基準を設けるのではなく、対象となるコロニーが広域コロニー群の中でどのような位置付けにあるのかを見極め、コロニーごとに異なった管理目標を設定することが肝要である。

なお、広域コロニー群内でのサテライトコロニーの役割は、コロニーの規模や継続年数、周辺コロニーとの位置関係などから総合的に判断すべきものであるが、個々の役割は必ずしも固定されているとは限らないため、モニタリングにより状況の変化を常に把握しておくことが必要である。

なお、以上の説明は広域コロニー群としての理想的なモデルを対象にしており、実際はこのように綺麗な関係が成立していない場合も多い。とくに近年はコアコロニーが成立する条件が整わず、サテライトコロニーのみで構成されている広域コロニー群も見られる。しかし、どのような場合でも、同一地域に複数のコロニーが存在すれば何らかの相互依存関係があるのが普通であり、その関係性を把握した上で広域的な視点から管理することが求められる。

もくじ

・ はじめに
1. 調査の概要
2. アオサギの置かれている現状
3. アオサギ駆除の現状
4. アオサギの駆除に係る問題と問題解決のための提案
5. アオサギの管理指針
6. 都道府県への提言
・ 図表
・ おわりに

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